「やまがうごくとき」
ある日のこと。
みんなが寝付いてしばらくたった23時ごろ。
私が2階の自室で事務仕事をしていると、なにやら1階で物音―。
ふと目が覚め、薄暗い天井をなにげなく眺める。
その時、あることが頭を駆け巡る。
「あっ!」
そういえば、明日は娘がいない日だ。
ご飯を作ってくれる人がいない。
「どうしようか。わたしは料理なんてしないし・・。」
周りを見渡すが、みんな眠っている。
「このままだと、みんな朝ごはんを食べれない。こうなったら、わたしが何とかするしかない!」
覚悟を決めて布団から飛び出す。
「自分に何が作れるかわからないが、もしかしたら冷蔵庫に何か作り置きがあるかもしれない。」
キッチンへ行き、冷蔵庫を確認する。
何かないか、何か―。
1階へ降りてみると、キッチンのドアの窓から明かりが漏れている。
そっと覗いてみると、暗がりの中ヨシさんが、
何やら必死の形相で冷蔵庫の中を物色している。
お腹でも空いたのかなとしばらく様子を見てみるが、
食べ物を口にする事はなく、冷蔵庫の食材を手にとっては
何やら困った顔で何かを考えている様子。
キッチンのドアを開け、
「ヨシさん大丈夫?」と声を掛ける。
臆病なヨシさんは突然ドアの開く音に、
「うわぁっ!」と飛び上がり、私の顔を見る。
「あぁ、お兄ちゃん!」
ホッとした顔を見せたのも束の間、
すぐに困った表情に戻り、
「明日娘がおらんけん、ご飯がないんよ!だけん何とか
用意せないかんと思ったんやけど、どうしよう。」
あまりの緊迫感に、本人には申し訳ないと思いつつも我慢しきれず思わず爆笑。
その後少し話をして、現在大浦家で生活していることを思い出して頂く。
どうやら寝ぼけて自宅と大浦家での生活がごっちゃになっていたよう。
「それはそうと、ヨシさん料理したことないっち言いよったのに、何か作るつもりやったと?」
「うん。だってどうにかせんなみんなのご飯が無いと思ったけんね。」
「いっつもわたしはせんっちいいよるのに、やるときはやるんやね。」
「まぁね。」と、2人で大笑い。
この日の出来事は、しばらく2人の間の笑い話になりました。
人はやっぱり必要に迫られたり、やろうという意志さえあれば、
やったことない事でもやれるんだと、改めて教えられる出来事でした。