「母」
食後に車椅子に座ったままウトウト。
横になるよりも車椅子のまままどろんでいるのが気持ちいい。
そう言って食後はいつも車椅子に座ったままウトウトするのがお決まりのマコさん。
その日の夕食後もウトウト。
わたしがサエさんと茶碗洗いをしていると、
突然マコさんが車椅子から立ち上がり、少し先の床に手を伸ばし、
何かを掴もうとしています。
私は何かゴミでも拾おうとしているのかと思い、転ばないようそっと近づきます。
見ると、マコさんが伸ばした手の先には何も落ちていませんでした。
「???」
マコさんの顔を見ると、
何やらぶつぶつとつぶやきながら、
懸命に何かを掴もうとしています。耳をすましてマコさんの言葉を聞いてみます。
『○○ちゃん。そんなところで寝とったら風邪ひくよ。』
どうやらまだ夢から覚めていないようです。
私はマコさんに声をかけ起こします。
起きたマコさんに改めて話を聞くと、
まだお子さんが小さい頃の夢を見て、
『子供が床で寝とるけ、風邪ひいたらいかんと思って、
毛布を取ろうとするけど中々取れんやった。わたし寝ぼけとったんやね。』
そう言って笑います。
その他にも、本人曰く、
実際には一度も作ってあげた事のないお弁当を作る夢なんかも見る事がありました。
マコさんはもしかしたら、現実では出来なかった事を、
今、夢の中で実行しているのかもしれません。
「夢の中ではマコさんどんな感じなん?」と聞くと、
『わたしは、なんでか知らんけど今のまんま。』
「え?お子さんが小さい時の夢なのに自分は若返ってないん?」
『そうなんよ。不思議やね。』
「それじゃあ、弁当作るのも一苦労やね。」
そう言ってふたりで大笑い。
お母さんは、いつまでたっても、子供が幾つになっても、
やっぱりお母さんなんだなぁ。