「 ユーモア 」
大浦家の家族は、診断は受けていない方もいますが、
ほとんどの方に認知症か、もしくはその手前くらいの物忘れの症状があります。
同じことを何度も話します。
同じことを何度も聞きます。
身体と同じように、脳の機能も少しづつ衰えていくのかもしれません。
しかし、物忘れはあっても、
長年の人生経験で培ったユーモアは、衰えることはないようです。
ヨシさんは最近、急に身体の動きが衰えてきました。
以前は大浦家をこっそり抜け出したりするほど元気でしたが、
今では職員の腕をつかんで歩くのがやっとの状態。
それでも極力身体を動かしてもらおうと、自発的にやっていた玄関掃除にスタッフが誘います。
玄関前の椅子に座ってもらい、ホウキを渡し、手の届く範囲を掃いてもらいます。
玄関掃除が終わって、リビングでくつろいでいる所に、私がやってきて、
「ヨシさん、玄関掃除してくれたらしいねー。いつもありがとうね。」
『いいんよ、身体が動かんからたいしたこと出来んからねー。』
「そんな事ないよー、私が怠け者やけんおかげで玄関が綺麗になって助かるよー。」
『そう?それなら良かった。』
「掃除しよる時お金とか落ちてなかったー?(笑)」
『あー、一万円札が5・6枚落ちとったねー。』
「え?ほんと?それたぶん俺が落とした一万円やけどどうした?とっとってくれとるかね?」
『いんや、食べたよ。』
「は?一万円札食べたん?えー!もったいない!一万円あったら美味しいもの沢山食べられたのにー!」
『うん。でも一万円も美味しかったよ。(笑)』
「そっか、やっぱり千円札や五千円札とは比べ物にならんやった?」
『そりゃもう全然。一万円札の方が断然美味しかったね。(笑)』
そう言って、話を聞いていた周りの入居者も巻き込み、みんなで大笑いします。
始めの私の質問から間髪入れず、こちらが戸惑うほどの、ユーモアのある返しをしてきます。
このような会話をしていると、脳の機能が衰えているとは、とても信じられません。
頭の回転の速い若い方でも、
ここまでのユーモアのある返しを出来る人はそんなにいないんじゃないかと思います。
些細な事かもしれませんが、
この様な事がある度、衰えと一言では片づけられない、
人間の能力の奥深さを感じずにはいられません。
もうひとつご紹介。
ある日。
シマさんがお風呂の前に電気髭剃りを片手に、鏡とにらめっこをしていました。
剃り残しはないかと不自由な手で自分のあごを触り、
確かめながら一生懸命に髭を剃っていました。
私は、シマさんの髭剃りが終わったのを見計らい、シマさんの横に来て、
「あら、こんにちは。うちにこんな男前いなかったはずですが、どちら様でしたかね?」
『・・・・ただのハゲです。』
この返しには、みながたまらず大爆笑!
その場にいた誰もが笑顔に包まれたのでした。
大浦家では、施設と同じようにイベントに出かけたり、
ゲーム遊びなどのレクレーションも行っていますが、
こういった日常の生活の中の何気ない笑いこそ、
一番大切にしていきたいと思っています。