「 嫁入り 」
ある日の事。
夕食後の後片付けをしていた所、どこからともなく
『先生!先生!』
声のする方を振り向くと、そこには手招きをするジュンさん。
どうやら私の事を呼んでいるらしい。
「先生って私?私はそんなたいそうなもんやないけ、
先生なんて恐れ多いよー。あきちゃんでいいよ。」
『いえいえ、そういうわけにはいきません。
私にとっては先生みたいなものですから。』
と、真剣な顔で即却下。
『それよりもこれを。たいしたことは出来ませんが、
せめてもの気持ちなので受け取って下さい。』
そういって封筒を私に差し出します。
「ん?これは何ですか?」
『いつもお世話になってますので、少ないですがせめてものお礼です。』
「いやいや、気持ちは嬉しいけど、私はこういうのは受け取らない様にしてるので、
それは自分の為に大切に使ってください。気持ちだけありがたく受け取りますね。」
『いやいや、そういうわけにはいきません!さんざんお世話になってますから!』
「いやいや!」、『いやいや!』
と、いやいやの応酬。
私は、せっかくのジュンさんの気持ちを後味の悪いものにしない為、
折れる事にしました。
「わかった!それじゃあありがたく頂きます。ありがとうね。」
私がそう言うと、満足そうに笑顔を浮かべ、
『いえいえ、これからも宜しくお願い致します。』
と、いつもの丁寧なお辞儀。
ジュンさんの部屋を後にして封筒を確認した所、
数万円と付箋が2枚入っていました。
お金はすぐに大浦家で家族より預かっているジュンさんの小遣い袋へ入れて、ご家族に経緯を報告。
面会時にご家族に回収して頂く事にしました。
付箋2枚は私に宛てた手紙でした。
― はじめまして
皆様方とはじめてお目にかかられましたのに、
長い間イライラの生活の連続で過しておりました。
砂川様にお世話様になりましてからは、日々が続く、
お嫁に行った気分でくらさせていただいております。
一日一日が楽しく、
こんなことがあっても良いんだろうかと砂川先生に年を合わせる気持で一杯です。
続きは又後日。
先生様 ―
ところどころ脱字があり、
文章になっていない部分はありますが、すごく気持ちの伝わってくる、
とっても素敵な手紙。
私にとっては、お金以上の価値のある、何よりも嬉しいプレゼント!
私の大切な宝物になりました。
ありがとう!ジュンさん♪