「 六男 」
令和2年11月1日。
上津役家六男となる、ザキさんが家族の仲間入りしました。
御年95歳。
ザキさんは元々ご家族と一緒に生活していました。
平成26年頃より認知症が発症。
記憶障害はもちろん、被害妄想などの症状も出ていたとの事。
ご家族と同居しているとは言っても、ご家族が仕事に行っている間、
どうしても1人になる時間があります。
その内、1人でふらっと外に出て帰り方がわからなくなり、
近所の方や警察にお世話になるという事が増えてきました。
その後、デイサービスやヘルパーサービスを出来る限り利用し、
1人になる時間を減らす事でそのような事も無くなり、認知症の周辺症状も落ち着いて来たそうです。
しかし、それでも1人になる時間が完全に無くなったわけではなく、ご家族の心配は拭いきれず。
また、長期に渡る介護生活に疲弊していた部分もあり、彼に合う施設が無いか探していた所、
担当のケアマネさんに弊社を紹介され、見学、体験、入居となりました。
住み慣れた自宅から施設へ入居するに当たり、
ご家族は本人へどう説明をしたら良いか悩まれていました。
そのまま正直に話しても、絶対嫌がるだろうし、
それにより与えるストレスから、どの様な状態の変化が出るかわからない。
ご家族から相談を受け、とりあえず、
まずご本人が上津役家へ来るのに納得しそうな説明をしてお連れして頂ければ、
その後は本人の状態を見ながら、適宜対応させて頂く旨をお伝えしました。
そして、長期で家を空ける事情が出来た為、その間だけ上津役家に泊まる。
ご家族からそう説明を受け、彼は上津役家へやってきました。
そうはいっても彼には認知症による記憶障害があります。
すぐになぜ自分が上津役家に居るのか分からなくなり、不安で落ち着きがなくなって、
あちらこちらと手掛かりを探すように上津役家を歩き回ります。
その都度スタッフがご家族と同様の説明をし、理解をしてもらいます。
また彼は戦争体験者で、本人曰く、若くして志願兵となり、
知覧で襲撃機の操縦士として特攻兵の方々と一緒に戦った事を良く話し、
その間は家に帰れない不安感なども無く、話に没頭するので、
何度も戦時中の話しを聞くなどして対応していました。
そして、1週間、2週間と日が経つにつれて、少し変化が出て来ました。
先程と同様に、落ち着きが無くなった際に、
「今日私は家に帰らんのかね?」と聞く彼に、
『今日はココに泊まりますよ。』と答えると、
「そっか、それならよかった~。安心しました。よろしくお願いします。」
という様な言葉が返って来るようになったのです。
それを受けて私はご家族に連絡し、本当は旅行ではなく、
今後は上津役家に引っ越して生活して行くという、本当の事を次の面会の時にでも話して下さい。
と、お願いしました。
ご家族の方は、少し心配そうな様子でこちらのお願いを受け入れて下さいました。
もしかしたら、このような時、必ずしも本当の事を本人に話す必要はないのかもしれません。
私が施設に勤めていた頃は、本人に本当の事を話す事はあまりなかったと思います。
それは、現時点で本人が落ち着き始めているのに、
そこでまた現実を突きつけてストレスを与えてしまう事の影響や、
話したとしても記憶障害により忘れてしまうのに、毎回事実を話してストレスを与えてしまうよりも、
本人が納得しやすい理由を伝えた方が、本人の為だと会社が考えていたのかもしれません。
・・・確かにそうかもしれません。
実際に、ザキさんもご家族に上津役家に住むと話して頂いた後も、
その事を忘れ、何度も聞きに来られます。
ただ私は、話せる状態の方であれば、出来る限り正直に話した方が良いのではないかと思っています。
それは、私達が入居者の方々に出来る限り誠意を持って正直に付き合いたいという想いと、
何度説明する事になっても、どこかでなんとなくでも、
もう自宅で生活する事が出来ないという現実を受け入れて頂いた方が、
その後の生活を楽しんで送れるのではないかと思うから。
そしてご家族に、本人を騙し続けて上津役家に入居させているという罪悪感を、
抱えたままでいて欲しくないと思うからです。
もちろん個人差がありますので、本当の事を言わない方がいいという判断をする事もありますが、
出来る限りご家族の協力の下、私達介護スタッフの努力で本当の事を話し、
その上で安心して生活を楽しめるようにして行きたいと思っています。
今後、ザキさんにどの様な変化が現れるか、楽しみにしつつ、
またご報告したいと思います。