「 酷すぎる 」
今年の5月の上津役家大分旅行の出発当日に入院となったカメさん。
(※会報誌2023年7月号参照)
その後、彼は徐々に回復し、退院出来るまでの状態になるも、
今度は肺に穴が開いている事が発覚。
状態が悪くなります。
医師によると、普通であれば自然に塞がるものだという事でしたが、
なぜか中々塞がらず。
別の病院へ転院し、手術をする事になりました。
かと思えばいざ転院するという時になって、
肺の穴が塞がり、転院する必要はなくなります。
その後、また時間をかけて状態が回復しますが、
上津役家へ帰って来るに当たり、ひとつだけ問題がありました。
それは、痰吸引です。
上津役家には看護師がいません。
痰吸引ができる施設であれば、退院する事が出来る為、
病院は痰吸引できる施設への入居をご家族に薦めます。
入院当初は頻繁に痰吸引が必要でしたが、
この時点では日中に2回の痰吸引で大丈夫な状態になっていました。
退院後、2週間は医療保険で訪問看護を受ける事が出来ます。
彼はまだ60代。
徐々に痰吸引の回数が減っている事もあり、
私は、退院後の関わり方次第で
痰吸引は必要なくなる可能性が高いと考えました。
しかし、訪問看護の入れる2週間を過ぎても痰吸引が必要になった場合、
痰吸引の費用は自費となってしまいます。
それではご家族様も上津役家へ帰して良いものか、不安になると思い、
2週間を過ぎても痰吸引が必要な場合、
その後1ヶ月の間の訪問看護の費用は弊社で負担させて頂く事を、
ご提案させて頂きました。
彼は上津役家の1人目の家族です。
何とか帰って来て頂きたい。
そして、念願だった旅行にも連れて行ってあげたい。
そう思い、弊社に出来る限りの提案をさせて頂きました。
ご家族様は、住み慣れた上津役家へ
彼を帰してあげたいと願う気持ちはあるものの、
今後また同様の事があった際の事を考えると、
どうするのが良いのか、かなり悩まれていた様です。
その後、病院やケアマネなど、関係各所の話を色々と聞いた上で、
上津役家へ帰って来るのを諦め、
別の施設へ入居をする事を決断されました。
とても哀しい決断ではありましたが、
ご家族様も彼の事を色々と考えた上での決断です。
彼と二度と会えなくなる訳ではありません。
新しい場所で彼が元気で過ごせるのなら、それが一番です。
こうして、新たな施設への入居を進める事になりました。
しかし、ここでまた彼に不運が降りかかります。
いよいよ退院し、新しい施設へ入居するというタイミングで、
同室の入院患者の方に、コロナ感染が発覚。
彼もコロナに感染し、退院が延期となってしまいます。
感染後、彼の状態は著しく悪化。
痰吸引も頻繁に必要になりました。
この状態では、新しい施設も受入が難しいとの事で、
新しい施設への入居も出来なくなります。
そして、今度は療養型の施設を探さなければいけなくなりました。
そして、受け入れ施設を探し、入居する手配を進めている。
そう、ご家族様から連絡を受け、
私達スタッフは、彼が回復するのをただ祈る事しか出来ませんでした。
そして10月。
私達は、上津役家の皆を連れて、
グリーンパークへの外出レクを行っている時の事でした。
彼のご家族様から電話。
― 〇〇が亡くなりました ―
この瞬間の事は、表現できません。
享年66歳。
彼の事を想うと、哀しくて、悔しくて、悔しくて。
―あの時、強引にでもご家族を説得して上津役家へ帰らせておけば―
―病院の同室者がコロナに感染していなければ―
―私がもっと早く旅行を実行していれば―
そんな、今ではどうにも出来ない後悔ばかりが頭の中を駆け巡ります。
彼が上津役家へ来たのは、2018年の10月。
5年近く一緒に過ごしてきました。
彼との思い出は、スタッフそれぞれに数えきれない程あり、
皆、彼の帰宅を待ち望んでいました。
もう彼に合う事が出来ないと知り。
皆ショックを受けていました。
神様はなんて意地悪なんだろう。
せめて楽しみにしていた旅行くらい行かせてくれてもいいじゃないか。
行かせてくれないだけでなく、
二度と会う事すら出来なくするなんて、酷すぎる・・・。
介護に携わって20年。
後悔の無い別れなんて、ひとつとしてありません。
だからこそ、
少しでも悔いが残らない様に、少しでも後悔を残さない様にと、
これまでお別れした皆の後悔を胸に、日々、努めてきました。
それでも、彼に対しては後悔ばかり。
まだ足りないのか―。
私もスタッフも彼を失った哀しみを受け容れ、前向きになるのに、
どうか、少し時間を下さい。
私共の事ばかり書きましたが、
一番無念なのは、ご家族様でしょう。
私共の想いや医師からの話など、
関係者それぞれの想いや情報に晒され、じっくり考える暇もなく、
決断を迫られた事と思います。
何を選択するのが一番良いのか、冷静に判断しろと言う方が無理な話です。
哀しい結末ではありますが、
皆が本人の事を考え、想い、選択した結果です。
彼はとても優しい人です。
きっと、皆の想いを分かってくれていたと思います。